俳優 山本 學
メモリークリニックお茶の水 朝田 隆
山本學氏といえば、「白い巨塔」、「愛と死を見つめて」などで主演を務めた有名俳優である。氏は3年程前に、お茶ノ水医学会館にあるメモリークリニックお茶ノ水を受診された。その理由は物忘れではなく、幻視が見えることであった。しかもよくある人や動物の幻視ではなく、幾何学模様である。
學氏は、これまでに数十のドラマで医者役をやり、医療界には精通されている。たとえば以前には、演技を磨くため病院の医療現場を見学されている。
こうした関係の中で、氏が並々ならぬ人生哲学を役者生活の中から学ばれてきたことが分かった。そこで私は、この英知を是非とも広く世に伝えたいと願い、「生老病死」の「老」と「死」を主題にした対談を引き受けていただけないかとお願いした。結果として、1年半前あまりの間に、1話当たり10数分の座談会を50回あまり催した。例えば、孤独や寂しさというテーマでは、學氏は、対処として感情を完全に開放することの重要さを強調された。つまり寂しい悲しいと思ったときには、まず思い切り泣く、その後で意識的に笑うという彼の独創的な方法を教えてくださった。
筆者は経験的に、後期高齢に至った方の多くは、その日々、2極に向かう心をもっておられると思う。まず終わりの覚悟とその準備はしなければならないとの思いである。またこうしたことを考えようとしない「否認」もある。これらは老いや死への諦めとまとめられる。その反面、衰えや認知症の予防に頑張るぞというアンチエイジングの気持ちがある。これはあくまで原則で、この両極のいずれに偏るかは人それぞれである。
しかもそれは、ある時は諦めに、またある時はアンチエイジングに寄って、両者の間を「行きつ戻りつ」する。人は「迷いの中に生き、迷いの中に死んでいく」とも言われる。こう考えたとき、學氏は「いずれも過ぎてはならない、今この一瞬を生き切ろう」と意を固めておられるように理解できる。
第30回学術集会共催セミナー(ランチョンセミナー)にご参加の皆様と共に、山本學氏のお話しを伺いながら、人生の永遠のテーマである「生老病死」について考えていきたい。